鬼退治伝説

約1200年前の桓武天皇の頃、現在の木部地区は芦やよしが生い茂る昼もうっそうとした湿地であった。特に今の清永、島、木部新保、折戸の境は、大沢という大きな沼地になっていた。

 この大沢には、この沼の主である水鬼が住んでいるといわれ、夜はもちろん昼でも現れ、湖畔の住民を食い殺したり、田畑を荒らしたりした。当時の人は、この大沢の辺りを鬼辺の地とと言って大変恐れていた。困った住人は、この水鬼を退治してもらうように天皇に願い出て、千人余りの兵士を送っていただいた。ところが、この大沢を囲んで、いよいよ鬼退治しようと言うとき、急に空が真っ暗になり、雨が地を打ち、地雷が鳴り響いた。同時に鬼が現れ、たちまち殆どの兵士を食い散らかしてしまった。

 その頃、この辺りに住む寺沢藤五郎という人が、ある夜不思議な夢を見た。

「この水鬼を退治するには、刀の力では無理だ。神様や仏様の力をお借りするがよい。」という神のお告げを聞いたということである。そこで再び天皇に願い出ると、今度は比叡山から七人の高僧と百人の武士を送って下さった。彼らは鬼辺の芦原を切り開き、七堂がらんの立派な祈祷所を作り、昼も夜もお経を読み、水鬼を退治してくださるよう、一心に神に祈った。すると、そのおかげかそれから百日余りも晴天が続き、大沢の水はすっかり干上がり、生えていた芦も、今にも燃えださんばかりの暑さになり、中にいた鬼は暑くて暑くてたまらずとうとう外へ逃げ出し、すっかり退治することができた。